放射線帯とは?

放射線帯とは、高エネルギー電子が地球近傍の宇宙空間を周回している領域のことです。

放射線帯の発見

地球周辺の宇宙空間には、放射線帯と呼ばれる、高エネルギー粒子が地球の磁場に捕捉されている領域があります。宇宙時代の幕があけた1958年、アイオワ大学のバンアレン博士らにより発見されました。
放射線帯の発見については、有名なエピソードか残っています。 もともと、バンアレン教授のグループは、宇宙からやってくる宇宙線を測る目的で、米国初の人工衛星エクスプローラー1号に宇宙線の量を測る装置ガイガーカウンターを搭載していました。エクスプローラーの打ち上げ後、ガイガーカウンターでは宇宙線が検出されました。しかし、カウントは予想以上に多かったり少なかったりと異常な値を示していました。バンアレン教授らは、人工衛星に積んでいたカウンターが壊れたのだと考え、 もう一度実験を行いましたが、そのときもやはり同じような結果でした。その後、強化した装置をエクスプローラー4号、パイオニア3号に搭載し、この異常値の検出こそが、エネルギーの高い粒子が大量に満ちている領域、放射線帯の存在の発見だと分かったのです。

赤道上空から見た図

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放射線帯の分布

放射線帯の分布構造は、粒子の種類やエネルギーによって異なりますが、基本的には地球の固有磁場に捕捉されトーラス状に地球を取り囲んでいます。概ね、陽子や各種イオンは、赤道上空約3000kmを中心として分布しています。
電子が存在する領域は、赤道上空約3000kmに集中する「内帯」と、約20,000kmに集中する「外帯」の2層の領域があります。外帯は多くの衛星が運用されている静止軌道まで広がっています。放射線帯外帯の電子フラックス分布は安定して存在せず、太陽活動の影響で大きく変化することが知られています。この領域の電子のフラックスは数桁単位で大きく増減し、ときに人工衛星に障害をもたらすこともあります。内帯と外帯の間の電子フラックスが激減する領域は「スロット領域」と呼ばれます。放射線帯内帯については、最新のVan Allen Probes の衛星観測データを用いた研究により、内帯にはすでにMeV電子が存在しないという解析結果も発表されています。

北極から見た図

放射線帯の粒子は、地球の固有磁場に捕捉されているため、磁力線に沿って南北半球を往復しています。そのため、磁力線を介して放射線帯とつながっている地域の上空には放射線帯の電子が侵入してきています。しかし、地表に近づくほど磁場の力が強くなるため、放射線帯の電子はある一定の高度より下には進めず、磁力線に沿って上向きに戻っていきます。南北に往復している粒子のうち、いくつかは反射されずにそのまま地表に向かって進みますが、高度が低くなると地球の大気の密度はどんどん濃くなるため、大気と衝突してエネルギーを失い、そのまま進み続けることはできなくなります。つまり、放射線帯の粒子が直接地表にくることはありません。約1MeV のエネルギーを持つ電子が侵入する高度は、約80-90kmです。
 地球は巨大な磁石ですが、場所によって磁場の力は強かったり弱かったりします。ブラジルから南大西洋へかけては、現在地球上でもっとも磁場が弱い場所で、南大西洋磁気異常領域 (あるいは、ブラジル異常領域)と呼ばれています。磁場が弱いと、地球に侵入してきた粒子が反射される高度が低くなります。そのため、ブラジルの上空では、他の場所に比べて、たくさんの粒子が放射線帯から侵入してきます。
 このように地球には磁場や大気が存在するため、地上に暮らす私達には直接的な放射線帯粒子の影響はありませんが、高度数100kmを飛ぶ国際宇宙ステーションや人工衛星は、このような領域で機器の誤動作の回数が増えることが報告されています。

LEO危険度マップ

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放射線帯粒子の特徴

放射線帯の中の電子は、エネルギーによって量も分布も異なります。放射線帯の中には、エネルギーが数10 keVから、相対論的な数10MeVに達する電子が存在していることが観測されています。エネルギーが高くなるにしたがって、粒子の数は少なくなります。また、エネルギーの高い電子ほど、より地球に近い場所にピークが存在し、内帯と外帯の間のスロット領域がよりはっきり存在します。

放射線帯電子のスペクトルとエネルギーごとのL値分布

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放射線帯と太陽の関係

太陽からは常に、太陽風と呼ばれる高温で電離した粒子が非常に高速で放出されています。地球の公転軌道付近で通常秒速400kmから450kmの速さを持ちます。太陽風の流れは常に一定ではなく、太陽面の爆発現象(太陽フレア)に伴うコロナ質量放出(Coronal Mass Ejection: CME)や高速太陽風が低速太陽風を圧縮した領域である共回転相互作用領域(Co-rotating Interaction Region: CIR)によって急激な変動を示します。こういった太陽風の変動が地球磁気圏に影響を与え、放射線帯電子を加速したり消失させたりします。

放射線帯と太陽の関係1

放射線帯高エネルギー電子の数を変動させるしくみ

放射線帯高エネルギー電子の数を変動させる要因は電子加速と電子消失です。
しかしこれらがどういった太陽風に応答するのか、どういった条件がどちらを優位にするのかなど、まだ明確には解明されておらず、世界中の放射線帯物理研究者が精力的に研究を続けています。最近の研究ではCMEよりも、CIRが地球磁気圏に衝突した場合の方が放射線帯高エネルギー電子の数が増えやすいということがわかってきています。以下では現在盛んに議論されている電子加速および電子消失プロセスについて簡単に解説したいと思います。

電子加速

低いエネルギーの電子を加速することで高エネルギー電子の数が増えます。この加速過程は断熱加速と非断熱加速に分けられます。

※ 断熱加速

電子を磁場の強い場所(地球により近い場所)へ移動させることでエネルギーを上げるプロセス。

※ 非断熱加速

電子のエネルギーをその場で上げるプロセス。

断熱加速は磁気圏全体が数分程度の周期でゆっくりと揺さぶられることが原因の1つであり、この揺さぶりにより放射線帯電子が磁気圏の内側もしくは外側へ輸送されます。外側へ輸送された電子はより磁場の弱い領域へ移ることになるので、断熱過程によりエネルギーを失う一方で、内側へ輸送された電子はより強い磁場がある領域へ移ることになるので、断熱加速によりエネルギーを上げます。全体として内側へ輸送される電子の数の方が多ければ、放射線帯電子のエネルギーが上がります。
非断熱加速は磁気圏内で発生する電磁波(プラズマ波動)と電子が共鳴することで起きます。プラズマ波動の一つであるホイッスラー波と呼ばれる波動と相互作用し共鳴を受けた電子は、非常に効率良くその波動からエネルギーをもらうことが出来るので、短時間で急激にエネルギーを増加させます。これはエネルギーを増加させると同時に磁場中の電子の軌道を変えることも出来るので、以下で説明するような電子消失の原因にもなっています。

電子消失

あるエネルギーの電子の数が減ることを電子消失といいます。これには2つの原因があります。
(1)電子のエネルギーが減る。
(2)電子が磁気圏から消える。
(1)のプロセスは磁気嵐が発生した時に起きます。磁気嵐が発生すると地球磁場強度が減少します。それに伴い断熱加速とは逆のプロセスとして磁気圏内の電子のエネルギーが減少します。このプロセスが磁気嵐中で常に支配的であれば、磁気嵐終了後に地球磁場がもとに戻ると電子のエネルギーももとに戻ります。しかし実際には磁気嵐後に放射線帯高エネルギー電子の数が増えたり減ったりするので、前に示している電子加速や(2)の消失プロセスが働いていると考えられています。
高エネルギー電子を磁気圏から直接消し去る(2)のプロセスは地球大気への落下と磁気圏境界面からの流出の2つに分けられます。

※ 大気落下消失

電子を含むプラズマ粒子は地球磁場の中を南北に往復運動しています。磁気嵐が発生すると磁気圏内でプラズマ波動が多く発生し、これら波動は磁気圏の中で南北往復運動していた電子の軌道を変えます。その結果一部の電子は往復運動出来なくなり地球へ落下して来ます。地球大気と衝突した電子はエネルギーを減らしたり大きく運動を変えられたりして再び磁気圏へ戻って来られなくります。これにより放射線帯内の電子の数が減少します。

※ 磁気圏境界面からの流出

電子は地球磁気圏の中を南北に往復運動するのに加え、東周りに移動します。太陽風が急激に強くなると、その動圧によって、磁気圏の昼側(太陽側)が強く変形し、磁気圏境界面が地球に近づきます。このとき、東方向に回っていた電子の一部が磁気圏境界面にぶつかり、そのまま磁気圏外へ流出し惑星間空間へ飛んでいってしまいます。

これら消失過程のどちらがどのようなときに重要になるのか、観測、理論、計算機シミュレーションを駆使し、現在も盛んに研究が行われています。[e.g. Saito et al. (2010) and (2012)]

放射線帯と太陽の関係2

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放射線帯の人工衛星への影響について

衛星の故障・障害原因の一つに衛星帯電という現象があります。これは荷電粒子が人工衛星に作用し衛星機器を帯電させるというものです。帯電が進行すると絶縁破壊による放電現象を起こし、周辺機器の故障の原因となります。帯電現象は原因となる電子のエネルギーにより2つに分けられます。1つ比較的エネルギーの低い電子によって引き起こされる表面帯電、もう1つは高エネルギー電子によって衛星内部で引き起こされる深部帯電です。

放射線帯の影響について

表面帯電

人工衛星に100keV以下(だいたい光速の20%以下の速さで飛ぶ電子に相当)の電子が衝突すると、人工衛星表面が負に帯電を始めます。これを表面帯電といいます。ある程度まで帯電すると後続の電子が負の帯電に反発されるのと同時に、複数の帯電を緩和する放出機構がバランスし、帯電はそれほど深刻なものにはなりません。しかし、急激な電子密度の増加に伴い、帯電の度合いが大きくなると、電気が流れにくい場所(例えば絶縁体を挟んでいる場所や部品間の隙間)の電位差が大きくなり、絶縁破壊により放電を起こします。もしその経路上に電子回路が存在すると故障の原因となりますし、放電の際に発生する電磁的なノイズが障害の原因になります。

深部帯電

100keV以上のエネルギーを持った電子は衛星内部にまで侵入します。これを深部帯電といい、内部の電子回路基板や配線の帯電原因となります。これは基板から配線への放電や内部配線間での放電原因となり、磁気嵐の発生に伴い数MeVのエネルギーを持った電子(数MeV:ほぼ光速で走る電子に相当)が増加すると、深部帯電による衛星障害のリスクが高まります。

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