本サイトについて

本サイトでは、放射線帯高エネルギー電子の最新の観測値と数日先までの予測値を配信しています。

はじめに

一般に高エネルギー粒子および電磁波(波長の短いもの)を放射線と呼びます。放射線の源は地球上、宇宙両方に存在します。原子力発電所や、医療に用いられるレントゲンのような人工的なものあれば、空気中に存在するラドンという放射性物質のように、地球上の自然環境からも放射線は出ています。宇宙からやってくる放射線は宇宙放射線といいます。この源は遙か遠くの宇宙から飛来してくる高エネルギー粒子(宇宙線)、太陽から放射される高エネルギー粒子(太陽放射線/プロトン現象)、そして地球磁気圏と呼ばれる地球磁場の勢力範囲内に存在する高エネルギー粒子があり、これらすべてを含めて宇宙放射線と呼ばれます。

宇宙放射線は、地球磁場や大気によってその侵入を妨げられ、地上で生活している限りは大きな影響を受けることはないですが、地上400km高度で作業を行う宇宙飛行士や、地球周辺を飛び交う人工衛星にとっては被ばくや機器の障害の原因となります。本予報サイトでは宇宙放射線のうち、特に地球磁気圏に存在する高エネルギー電子、電子放射線帯の変動に関する予報を行っています。

放射線図解

アラートレベルの基準

衛星の故障・障害原因の一つに衛星帯電という現象があります。放射線帯の高エネルギー電子は衛星機体の外壁から侵入し、衛星内部で深部帯電を引き起こす原因となることがあります。帯電が進行すると絶縁破壊による放電により周辺機器が損害を受ける危険もあります。

NASAが公開しているtechnical handbookには、CRRES衛星のInternal Discharge Monitor(IDM)実験の結果をもとに、衛星内部に入射した電子のフラックスが0.1 pA/cm2(daily fluence 3.8×109 /cm2 sr)未満であれば、内部帯電による問題はほとんどないと記載しています[Frederickson et al., 1992]。一方、DRAδミッションで観測されたファントムコマンドの解析によると、内部帯電による影響がでる閾値は、エネルギーが2 MeV以上の電子の1日フルエンスが5×107 /cm2 sr であるという結果も報告されています[Wrenn and Smith, 1996]。静止軌道の場合、エネルギーが3 MeV以上の電子フラックスは概ね0.1 pA/cm2未満であり、3MeV以下の電子は110 milのアルミニウム同等物によって侵入を防ぐことができます。しかしながら、遮蔽設計が十分でない場合は障害発生に警戒する必要があります。

情報通信研究機構宇宙天気予報センターでは、上記の文献のデータを参考に、放射線帯電子のアラートレベルを以下のように設定しています。高エネルギー電子の現況把握には、GOES Secondary衛星が観測するエネルギーが2MeV以上の電子の24時間フルエンス値を利用しています。

静穏 (フルエンス:3.8×107[/cm2 sr])
比較的低い状態を意味します。1996年から2016年までの統計(以下の年別アラート発生頻度図より)において、約60%の時間が「静穏」状態にあります。

やや高い(フルエンス:3.8×107[/cm2 sr]以上3.8×108[/cm2 sr]未満)
太陽風の影響によりこのレベルに達することがあります。統計的には約30%の時間が「やや高い」の状態にあります。

高い(フルエンス:3.8×108[/cm2 sr]以上3.8×109[/cm2 sr]未満)
CMEやCIRの影響によって放射線帯電子が増加した場合に「高い」状態へ達することがあります。この状態の統計的な発生確率は太陽活動周期で平均すると約10%です。

非常に高い(フルエンス:3.8×109[/cm2 sr]以上)
CMEやCIRの影響によって放射線帯電子が大幅に増加した場合に「非常に高い」状態へ達することがあります。この状態の統計的な発生確率は太陽活動周期で平均すると1%以下です。

放射線帯電子フルエンスが「高い」または「非常に高い」場合に衛星障害が発生することがあります。1994年1月20日に発生した放射線帯電子増加時においては、日本の衛星BS-3aが放送の中断を起こし、またカナダの衛星Anik E-1とE-2にも問題が発生しました。

年別アラート発生頻度

このページの一番上に戻る ▲

予報モデルについて

【予報値算出方法の概要】
 放射線帯予報では、静止軌道上におけるエネルギーが2MeV以上の電子の量が、今後どのように推移していくかを予報しています。トップページでは、今後24時間に静止軌道衛星が地球を一周したとき受ける電子のフルエンス予報を、数値とアイコンでお知らせしています。トップページの予報値はGOES Secondary衛星(通常は経度135°W)が飛翔する静止軌道における値で1時間毎に次の24時間の値に更新されます。また、静止軌道危険度予測のページでは、GOES Secondary衛星(経度135°W)・GOES Primary衛星(経度75°W)軌道上におけるエネルギー 2 MeV以上の電子フラックス、および、日本上空の経度域を飛翔するひまわり衛星の経度上におけるエネルギー約1MeVの電子フラックスについて、これまでと今後の1時間毎の観測値と予報値を時系列プロットでお知らせしています。

本ウェブサイトから配信している予報値の算出は、多変量自己回帰モデルとカルマンフィルターを用いて行っています。入力する時系列パラメータは、太陽風速度・惑星間空間磁場、地磁気指数のリアルタイム観測値などです。予報モデルの詳細については論文をご参照ください。[Sakaguchi et al., Space Weather, 2013, 2015]

計算式

式の説明:多変量自己回帰モデル式。y(t)は予測変量と説明変量から構成される
時系列ベクトル、A(t)は回帰係数行列、v(t)は白色ノイズ、mは回帰次

【高エネルギー電子フラックス空間分布計算】
 本予測モデルでは、静止軌道での高エネルギー電子フラックスの1日平均値予測を行っています。このため、空間3次元のフラックス分布を見積もるために複数の関連モデルを組み合わせています。現段階で用いているモデルは以下の通りです。

(1)Tsyganenko (TS05)磁場モデル
(2)GEMSIS-RBモデル
(3)AE8MAXモデル

(1)Tsyganenkoモデル
 太陽風パラメータおよびDst指数を入力として地球磁場の形状を求めます。地球磁場は太陽風の影響で、太陽側(昼側)で押しつぶされ、太陽と反対側(夜側)では太陽風に引きずられ引き延ばされています。このような形状をこのモデルで再現します。
Tsyganenkoモデル(外部ページ:英語)

(2)GEMSIS-RBモデル
 名古屋大学宇宙地球環境研究所において開発されたモデルで、与えられた3次元磁場中での荷電粒子の軌道を高精度に追跡します。実際に地球磁気圏に存在する電子すべての軌道を追跡することは現状の計算機能力の問題で不可能ですから、いくつかの代表電子の軌道を計算することで全体的な分布を見積もります。
GEMSIS-RBモデル(外部ページ)

(3)AE8MAXモデル
 過去に衛星で観測されたデータ(太陽極大期)をもとにして構築された電子フラックス分布モデルです。これを基準として予測モデルで得られたフラックス値を考慮し、RBモデルで扱われる代表粒子一つ一つに重みを与えます。
AE8モデル(外部ページ:英語)

予報モデルについて

上記のモデルを用いて、観測された太陽風パラメータをもとにして、3次元磁場構造および静止軌道上のフラックス予測値を計算します。そして、計算された磁場構造の中に電子をばらまき(個数>104個)、各代表電子の重みを1として夜側磁気赤道でのLおよびピッチ角方向のフラックス分布を見積もります。同時に、予測値と経験的なフラックスモデルよりLおよびピッチ角方向のフラックス分布を計算し、重み1で計算されたフラックス分布と比較をします。各代表電子にどれだけの重みを与えればフラックスモデルを再現出来るのかを計算し、計算された重みをもとにRBモデルを用いて軌道計算、3次元的なフラックス分布を見積もります。現状ではピッチ角(sin aeqに比例する形)および半径方向分布は経験的なモデル(AE8MAX)をもとにしていますが、より理論に基づいた分布予測を行えるよう私達は研究・開発を続けています。

このページの一番上に戻る ▲

観測データについて

本サイトでは、放射線帯電子の現況・予報をお知らせするため、複数の地上・衛星観測データを使用させて頂いています。データを提供して頂いている全ての機関とそのメンバーに感謝致します。尚、本ページから公開されているこれらのデータを使用される際は、データ提供元サイトに詳しく記載されている注意書きに従って扱って下さい。

■GOES衛星
GOES(Geostationary Operational Environment Satellite)衛星は、1974年以降、米国が連続的に静止軌道に打ち上げを行っている環境観測のためのシリーズ衛星。宇宙環境モニターと呼ばれる装置を搭載し、高エネルギー粒子、磁界、X線などを観測している。本サイトでは、高エネルギー粒子センサー(EPS: Energetic Particle Sensor)で観測されたエネルギーが0.8MeV以上、2MeV以上の電子フラックスと10MeV以上、100MeV以上プロトンフラックスのリアルタイム観測値を提供している。
※リアルタイム観測値は、地上での校正後にデータ値が変更される場合があるのでご注意下さい。

データ提供元サイト:
http://www.ngdc.noaa.gov/stp/satellite/goes/index.html

GOES衛星

■ひまわり衛星
ひまわり8号衛星は、2014年10月に日本国が静止軌道へ打ち上げた現在運用中の静止気象衛星。ひまわり8号衛星および9号衛星には、宇宙環境データ取得装置(Space Environment Data Acquisition monitor: SEDA)が搭載されている。本サイトでは、SEDAで観測された、エネルギーが0.2 ?から2.0 MeV(7 channels)の電子フラックスと、21.6, 29.9, 37.9 MeVのプロトンフラックスのリアルタイム観測値を観測データBOXページより配信している。

データ提供元サイト:
http://seg-web.nict.go.jp/himawari-seda/

ひまわり衛星

■こだま衛星
こだま衛星(DRTS: Data Relay Test Satellite)は、2002年9月に日本国が静止軌道へ打ち上げたデータ中継衛星。2017年8月5日 午後2時45分(日本時間)に運用終了。 宇宙環境計測装置として、放射線吸収線量モニター(SDOM: Standard Dose Monitor)を搭載している。本サイトでは、SDOMで観測された、エネルギーが0.6-1.2 MeVの電子フラックスと8-18, 34-108, 117-212 MeVのプロトンフラックスの観測値を観測データBOXページより配信している。

データ提供元サイト:
http://seesproxy.tksc.jaxa.jp/fw/dfw/SEES/Japanese/Data/data_drts_j.shtml

こだま衛星

■ACE衛星
ACE(Advanced Composition Explorer)衛星は、地球へ飛来する太陽・銀河起源の粒子を観測するための探査機。1997年8月に、地球と太陽の間(地球上空1億5千万km)に米国から打ち上げられた。2012年現在も運用中であるが、後継機のDSCOVR衛星がすでに運用を開始している。太陽風電子、プロトン、アルファ粒子モニター(SWEPAM: Solar Wind Electron, Proton, and Alpha Monitor)、磁力計(MAG: MAGnetometer)などを搭載し、太陽風を常時定値点で観測している。本サイトでは、SWEPAM及びMAGで観測された、太陽風速度、太陽風密度、惑星間空間磁場のリアルタイム観測値を提供している。
※リアルタイム観測値は、地上での校正後にデータ値が変更される場合があるのでご注意下さい。

データ提供元サイト:
http://www.swpc.noaa.gov/products/ace-real-time-solar-wind

ACE衛星

■DSCOVR衛星
DSCOVR(Deep Space Climate ObserVatoRy)は、地球から太陽方向に1億5千万km離れたL1点と呼ばれる重力安定点で、太陽風及び地球放射を常時定地点で計測する人工衛星である。2015年2月に米国から打ち上げられた。太陽風粒子及び磁場を計測する装置(PlasMag)が搭載されており、ACE衛星の後継機として、2016年7月末から定常運用を開始した。本サイトでは、PlasMagで観測された太陽風速度、太陽風密度、惑星間空間磁場のリアルタイム観測値を提供している。
※リアルタイム観測値は、地上での校正後にデータ値が変更される場合があるのでご注意下さい。

データ提供元サイト:
https://www.ngdc.noaa.gov/dscovr/

DSCOVR衛星

■AE指数(AU/AL/AE)
AE(Auroral Electrojet)指数は、オーロラ帯での地磁気活動度をあらわす指数。オーロラ帯を流れる電流(オーロラエレクトロジェット)の密度を表している。AU/AL指数は、それぞれ地磁気の最大変化量(Upper)と最小変化量(Lower)を意味する。AE指数はその変化量の幅:AE = AU – AL で定義される。本サイトでは、AU/AL/AE指数のリアルタイム観測値を提供している。
※リアルタイム観測値は、地上での校正後にデータ値が変更される場合があるのでご注意下さい。

データ提供元サイト:
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/

AE指数

AE指数を生成するために設置された磁力計の位置とリスト

■Dst指数
Dst指数は、磁気嵐の発達度をあらわす指数。主に、内部磁気圏の環電流(リングカレント)の大きさが反映される。日本の気象庁柿岡地磁気観測所を含む、中・低緯度で観測されている。
※リアルタイム観測値は、地上での校正後にデータ値が変更される場合があるのでご注意下さい。

データ提供元サイト:
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/

Dst指数

Dst指数を生成するために設置された磁力計の位置とリスト

このページの一番上に戻る ▲